関税の知識ABC
目次
関税は、輸入の際に課される税金
輸入貨物に対して課される税金には、関税・消費税・地方消費税などがあります。
また、例えば、酒類を輸入する場合は、さらに酒税が課されます。これらを合わせて輸入税と呼ぶこともあります。
この中の関税は、主に国内産業保護を目的とする税金です。経済連携協定では、関税についての特別の規定による便益が規定されています。ここでは、関税についての基本的な仕組みをご紹介しましょう。
関税額の求め方は、非常に単純です。
関税の課税標準(輸入貨物の価格or数量)×関税率=関税額
という式で求められます。
たとえば、100万円の貨物を輸入した場合で、その貨物の関税率が6%であった場合、
100万円(関税の課税価格)×6%(関税率)=6万円(関税額)
となります。ですから、課税標準と税率が分かれば、すぐ算出できます。課税標準は、通常は、貨物の価格に日本に到着するまでにかかった運送関連費用や海上保険料等を加算した価格(CIF価格に類似した価格)になります。
関税の体系
関税は、貨物を輸入するときに誰でもが納付すべき本税と、本税を納付するにあたってルール違反があったため、そのペナルティ―として賦課される附帯税に分けられます。
1, 本税
2, 附帯税
- ①延滞税
- 法定納期限までに納めなかった場合に課される関税
- ②過少申告加算税
- 税額を少なく申告した場合に課される関税
- ③無申告加算税
- 申告しなかった場合に課される関税
- ④重加算税
- 隠蔽、仮装して納税申告した場合、隠蔽、仮装に係る部分について過少申告加算税や無申告加算税に代わって課される関税
たとえば、ある貨物を輸入するに当たり、EPA協定で定める税率がFree(無税)であった場合、これを利用し、輸入する場合には、締約国の原産品であることを証明しなければなりません。そこで、原産地証明書等を税関に提出します。その結果、納付すべき関税額は、0円となるわけです。
しかしながら、輸入後(事後に)原産地証明書等に瑕疵がある事が調査で分かり、原産性が否認されたとします。そして、納付すべき関税額が450,000円になると修正申告を行いました。
この場合、本税である450,000円のほかに、ペナルティとして、延滞税や過少申告加算税が、また、隠蔽や仮装の事実がある場合には、過少申告加算税に代わって重加算税が賦課されることがあります。さらに、過去5年以内に修正申告を行い、又は更正や決定がされた結果重加算税が課されたことがある場合には、通常の重加算税にさらに加重された重加算税が課されることがあります。
納税義務と国の徴収権
納付すべき関税額が確定すると納税義務者は、国に確定した額を納める義務が生じます。(国に対する租税債務が発生します。)
一方、国は、納税義務者に対し確定した関税の額を請求する公法上の権利が生じます。(納税義務者に対し租税債権=徴収権が発生します。)
万が一、納付すべき関税が納期限までに納付されない場合は、国税徴収法が適用されて、滞納処分がされることがあります。滞納処分は、財産調査から差押え、換価処分の一連の手続で、国税徴収法の規定により国等が行うことができ、その際、裁判所の差押命令等は、不要です。
関税額は、いつどのように確定するのか
関税額の確定方式には、3つの税額の確定方式があります。
- ①申告納税方式
- 納付すべき税額又は、当該税額がないことが納税義務者のする申告により確定することを原則とする方式。ほとんどの場合、申告納税方式によります。
- ②賦課課税方式
- 納付すべき税額が専ら税関長の処分により確定する方式
関税法などに賦課課税方式により税額が確定する関税は、限定的に列挙されています。
例えば、課税標準となるべき価格が20万円以下の郵便物に対する関税で(輸入者が申告納税方式によることを希望しない場合を除く)、過少申告加算税、無申告加算税、重加算税などが賦課課税方式により税額が確定します。
- ③自動確定方式
- 延滞税は、特別の手続きなしに関税法の規定により自動的にその額が確定します。令和元年の延滞税率は、年率2.6%で、延滞日数(法定納期限の日の翌日から実際に納付される日までの日数)に応じ自動的に確定ます。
(なお、延滞の状況により8.9%が適用される場合もあります。)
関税率の種類
一口に関税率といっても初めての方には、複雑に感じるかもしれません。
大きく分け、複雑な税率の体系をとらない簡便な税率である簡易税率(おおむね、安価な貨物や海外旅行などで海外から携帯などにより輸入される貨物に適用される税率)と一般の輸入の際に使われる税率の2つに分かれます。
(1)簡易税率
- 携帯品・別送品に対する簡易税率(海外旅行の時)
- 少額貨物に対する簡易税率(課税価格20万円以下の貨物について適用される税率)
(2)一般の税率
EPA税率の学習をする場合は、主としてこの一般の税率が重要です。
国定税率
日本の国会で定められて法律に基づく税率です。これは、基本税率(暫定税率)と特恵税率の2つの税率があります。
基本税率(暫定税率)
一般に適用される日本の国会が定めた税率です。通常、基本税率が適用されますが、品目によっては、暫定税率が定められていることがあります。その場合は、基本税率ではなく暫定税率が適用されます。この税率を適用して輸入する場合、原産地証明書は、不要です。
特恵関税率
特恵税率は、開発途上国(特恵受益国)や後発開発途上国(特別特恵受益国)の原産品を一定の条件の下に輸入する場合に適用される税率です。そして、特恵税率は、無税であったり、通常の税率より低い税率が設定されています。また、後発発展途上国に対する特別特恵関税率は、すべて無税に設定されています。これにより、開発途上国や特別特恵受益国からの輸入を増やし、相手国の外国為替収支を改善させ、間接的に援助を行おうという制度です。特恵関税の適用を受けるためには、原則として原産地証明書が必要です。
なお、EPA(FTA)特恵税率といった場合は、この特恵関税とは、違いますから注意が必要です。EPA(FTA)税率というのは、それぞれのEPA協定に基づく特別な便益に係る譲許税率のことです
協定税率(WTO税率)
この税率は、WTO協定で定められた譲許税率です。
WTO加盟国の原産品を輸入する場合には、国定税率(基本税率若しくは暫定税率)にかかわらず、協定で定められたWTO税率を超えて税率を課してはならないとされています。
この税率は、日本では、WTO加盟国に関わらず、政令で定められた国も適用されることになっています。これを特に便益関税と呼んでいます。つまり、便益関税適用国は、協定税率が適用されます。
この協定税率の適用を受けるためには、原則として原産地証明書が必要です。
EPAによる税率(EPA特恵税率)
経済連携協定における関税についての特別の規定による便益に係る税率のことをEPA特恵関税といいます。このEPA特恵税率を適用して輸入する場合には、原産性を証明しなければなりません。したがって、原則として原産地証明書などそれぞれのEPAで規定されている方法で原産性を証明する手続きが必要です。
そして、これらの税率を調べるには、実行関税率表というアイテムが必要です。
また、税率は、輸入する品目毎に異なります。実行関税率表により正しい税率を選択するには、輸入する貨物のHSコード(関税分類番号)を特定しなければなりません。これが特定されないと、税率の適用が全くできないのです。
HSコードとはいったいどんなものでしょう?
HSコードは、WCO(世界税関機構:本部ブリュッセル:ベルギー)によって定められた関税分類番号のことです。
そして、「商品の名称及び分類についての統一システム(Harmonized Commodity Description and Coding System)に関する国際条約」という国際条約によってこのHSコードは使用されています。現在では、ほとんどの国が使用しています。つまり、世界中どこでも、同じ商品であれば同じHSコードが使われるということになります。
HS品目表は、大分類として21の部に分かれ、全体で97の類に分類されています。ただし、将来使用する可能性に備えて第77類は、留保され欠番になっています。
このHSコードは、輸入のみならず、輸出の際にも用いられています。
具体的にどのようにHSコードを特定するのでしょうか?
たとえば、綿製のハンカチについて見ていきましょう。実行関税率表をご覧ください。
第62類 衣類及び衣類附属品(メリヤス編み又はクロセ編みのものを除く。)
実行関税率表(日英両文)-2019年度版-より 刊:日本関税協会
※クリックすると拡大表示されます。
綿製のハンカチが品名欄に記載されています。また、英文のDescriptionには、Handkerchiefs of cottonと記載されています。
そして、番号、統計細分、NACCS用と区分され、数字が記載されています。
綿製のハンカチ(Handkerchiefs of cotton)の場合、
- 番号
- 6213.20
- 統計細分
- 000
- NACCS用
- 0
とあります。これを続けて表示すると6213.20-000-0となります。
このうち、最後のNACCS用の0を除いたものが、HSコードと呼ばれるものなのです。つまり、9桁でできています。
さらに、このHSコードを細かく分類すると
- 62(上2桁)は、「類」(Chapter)と呼ばれる部分です。
- 6213(上4桁)は、「項」(Heading)と呼ばれる部分です。
- 6213.20(上6桁)は、「号」(Subheading)と呼ばれる部分です。
実は、 ここまでがWCOが定めているHSコードです。ですから、世界共通です。
000(7桁以降)は、「統計細分番号」(-Statistical code)と呼ばれ、各国が自由に決めることができるもので、国ごとに異なりますから注意が必要です。
このHSコード(6桁)は、おおむね5年に一度見直しがされ、その時に改正されるHSコードもあります。
現在(2019年9月現在)の最新の改正は、2017年です。ただし、EPAの適用品目のHSコードは、2017年版のHSコードが使われているとは、限りませんので、実務上注意が必要です。
例えば、HS表記は、シンガポール協定やメキシコ協定などでは、2002年のものに基づきます。
分類にあたっての何か法則は、ありますか?
輸入貨物をどのHSコードに分類するかは、「関税率表の解釈に関する通則」が重要です。輸出の場合も同様に「輸出統計品目表の解釈に関する通則」があります。これらの品目規則は、HSコードと一体をなしているものです。
「関税率表の解釈に関する通則」は、通則1から通則6及び備考から構成されています。
分類にあたり通則1の規定が、まず優先され、それでも分類ができない場合、以下通則2による分類方法を適用していきます。ほとんどのものは、通則1によって分類が可能です。
「通則1この表の適用に当たっては、物品の所属は、項の規定及びこれに関係する部又は類の注の規定に従い、かつ、これらの項又は注に別段の定めがある場合を除くほか、次の原則に定めるところに従って決定する。」
つまり、それぞれ分類にあたって「注」が規定されているのでそれに従って分類しなさいと言っているのです。
具体的な例を見てみましょう。
メリヤス編みではないユニセックスのパジャマ(男子用の衣服であるか、女子用の衣服かを判断することができないもの)を輸入する場合、どのように分類するのでしょうか。
第11部紡織用繊維及びその製品の第62類「衣服及び衣服付属品(メリヤス編み又はクロス編みのものを除く)を注意深く見ます。
第62類に次のような「注」があります。
「男子用の衣服であるか女子用の衣服かを判別することができない場合には、女子用の衣服が属する項に属する。」
このように分類にあっての注意が記載されています。これに従って「女子用の衣服」に分類することになります。
先ほども言いましたが、ほとんどの場合、部や類の注を参照することで分類は、できます。しかし、それでも分類できない場合は、「関税率表の解釈に関する通則2」以下の通則規定を適用して分類していきます。
税率の選択は、どのようにするのですか?
HSコードの分類ができたところで、同じコードに税率がたくさん書かれていますが、どの税率を使ったらいいのでしょうか。
例を挙げてみましょう。
貨物AをWTO加盟国であるイタリア輸入するに当たり、実行関税率表を調べた結果次のような関税率(Tariff rate)でした。どの税率が適用されるのでしょうか。(EPAでは、適用されない品目だと仮定します。)
品名 | 基本税率 | 協定税率 | 特恵税率 | 暫定税率 |
貨物A | 2% | 5% | Free | 4% |
まず、イタリア(WTO加盟国)からの輸入であることに注目してください。
イタリアは、開発途上国ではなく、特恵関税の対象にはならないのは、言うまでもありませんね。
「WTO加盟国の原産品に対する関税は、WTOで定める譲許税率(WTO税率=協定税率)を超えては、ならない」
とされています。ですから、日本独自の税率である国定税率が協定税率以下であれば、国定税率が、国定税率が協定税率を超えている場合は、協定税率が適用されます。
では、この貨物Aに適用される国定税率は、どれでしょう。
基本税率と暫定税率の2つが定められています。2つが定められている場合には、暫定税率が優先して適用されます。ですから暫定税率である4%が国定税率になります。
協定税率が5%ですから、この国定税率である暫定税率4%は、譲許税率を超えていませんからこれが適用されます。正解は、暫定税率4%ということになります。
ところで、日本において特恵関税やEPA税率以外で通常適用される税率のことをMFN(Most Favored Nation)税率と呼んでいます。
輸入される貨物がEPA税率の対象となるものかを、どのように調べたらいいのでしょう?
これまでお話しした知識を基に次の順番でEPA税率が適用される貨物かどうかを調べてみましょう。
- 貨物のHSコードを特定し、EPAにより譲許を受けることができる貨物か否かを確認しましょう。
- 対象貨物であれば、EPA税率をみて確認しましょう。
調べ方は、財務省ホームページにある実行関税率表を参照してください。
*1: 税関ホームページにリンク
*2: 2020年10月現在では、2020年10月1日版です。
同じ品目でもEPAによって税率が違うのですが?
EPAがいくつか利用できる場合の税率比較は、大切です。また、MFN税率、特恵税率(GSP税率)をも調べ有利な税率により輸入(納税)申告を行います。但し、国定税率以外を適用する場合は、原則として原産性を証明する必要があります。この場合、EPAごとにそれぞれ原産地規則や原産地手続が異なりますので、注意しなければなりません。
①EPAがいくつか利用できる場合の税率比較
例えば、ベトナムからの輸入の場合次のような種類のEPAがベトナムと日本と締約されています。
- 日ベトナム協定
- アセアン協定
- TPP11(CPTPP)協定
これに、RCEPが将来加わると4つのEPAが併存することになります。これらのそれぞれの税率を比較し有利なEPAの税率を使用します。ただし、それぞれの協定ごとに原産地規則や原産地手続が異なりますので、税率だけではなく、原産性の確認も重要です。
②MFN税率との比較
EPA税率が、MFN税率より有利とは限らない場合もあります。これは、関税の撤廃を段階的に行う場合に起こりうるもので、「逆転税率」と呼んでいます。この場合は、MFN税率を使います。
例えば、くん製にしたいか(1605.54-100)を実行関税率表(2019年4月1日版)で調べると
- MFN税率(基本税率)
- 6.7%
- TPP11税率
- 7%~8.5%
となります。この場合現時点では、基本税率を使用した方が有利だということになるのです。
③特恵税率とEPA税率との関係
特恵関税とEPAとの調整は関税暫定措置法施行令にされています。
EPA税率が特恵税率を超える場合を除き、特恵関税の便益を与えないのが原則です。
- EPA税率>特恵税率
- この場合のみ特恵税率が適用される。
- EPA税率=特恵税率
- EPA税率が適用される。
ただし、アセアン協定におけるカンボジア、ラオス、ミャンマーを原産地とする物品については、上記規定は、適用されません。したがって、EPA税率と特別特恵税率と2つの税率が適用される物品については、二つの税率がそれぞれ共存していることになり、輸入者が任意に税率を選択することができます。
EPA協定の便益を受けて輸入する場合、消費税も免除されますか ?
EPAにより関税が無税であっても消費税などの内国消費税は、課税されます。
例えば、EPAでワインが無税で輸入されるという意味は、関税が無税になる意味です、消費税や酒税などは、課税されます。これは、特恵関税の場合も同様です。
消費税は、関税の課税価格が課税標準の基になりますので、コスト計算のためには、輸入貨物の課税価格の決定方法も知っておく必要があるでしょう。